第1章:空へ向かう、その一瞬に流れる音楽
搭乗ゲートを抜け、機内に足を踏み入れる
シートに腰を下ろし、ベルトを締め、スマートフォンを機内モードに切り替える。
ふと窓の外に目を向けると、ゆっくりと景色が動き、機体が滑走路に向けて動いていることが分かる。
いつもの光景なのに、何度見ても少し胸が高鳴ります。
私には、離陸前に欠かさず行っているルーティンがあります。
それは、機体が滑走路に進入し、いったん停止した後、離陸に向けてエンジンの音が高まり、加速を始めるそのタイミングで、ある一曲を再生することです。
その曲のタイトルは、『I Will Be There with You』。
JAL(日本航空)の機内テーマとして流れるこの楽曲を、私はJAL便に限らず、ANAやタイ航空など、どのフライトでも同じように再生しています。
この曲を聴くことで、私の心は旅のモードに静かに切り替わる
仕事のことや日常のあれこれが、スーッと遠のいていき、離陸に意識が集中する。
エンジンの音が一段と高まり、機体がゆっくりと滑走路を走り出します。
私は窓の外に広がる青空を見ながら、イヤホン越しに流れる美しいピアノの旋律。
機体がふわりと地面を離れます。
眼下の景色が小さくなっていく中で、私は静かに微笑みながら、「また旅が始まったな」と感じます。
旅の始まりに流れる一曲
ここでは、そんな旅の始まりに流れる一曲について、少しお話ししたいと思います。
2章:JALの音楽と、私の旅の関係
私がこの音楽と出会ったのは、初めての海外出張でインドを訪れたときでした。
慣れない環境、過酷な気温、食事、衛生、そして仕事のプレッシャー。
当時の私は、海外出張という響きに少し憧れを抱いていたものの、実際には心身ともにすっかり消耗してしまっていました。
そんな状態でデリーの空港から乗り込んだのが、成田行きのJAL便でした。
なぜJALなのか――デリーからの帰路で沁みた一杯の味噌汁
初めての長期出張の帰路、客室乗務員の方々の穏やかな声かけや細やかな気遣いに、張り詰めていた気持ちが少しずつ解けていきました。紙コップでいただいた味噌汁は、不思議なくらい体に染みました。あの瞬間、「日本へ帰る」という実感が胸に広がり、私はJALのファンになりました。のちにタイへ駐在した際もバンコク行きでJALを積極的に利用し、JGCを取得しました。今では搭乗機会が減ってしまいましたが、あのときの記憶がある限り、できるだけJALを選ぶようにしています。
搭乗して手荷物を収納すると、機内にはこの音楽が流れていました。静かで優しく、けれど芯のある旋律。耳に届いた瞬間、「ようやく帰れる」という安堵感が込み上げたのを覚えています。あのとき、この曲は単なる機内音楽ではなく、“帰国”という言葉にふさわしい旋律として、私の心に深く刻まれました。
それ以来、この曲は私にとって「旅の始まり」であると同時に、「無事に帰ってこられる」という安心感を与えてくれる音楽になりました。
3章:『I Will Be There with You』という楽曲の魅力
この曲『I Will Be There with You』は、世界的音楽プロデューサーであるDavid Fosterが作曲した、JALオリジナルのテーマ曲です。
JALの機内への搭乗時のBGMとして2008年に制作されたもので、長年にわたりJAL便の機内やプロモーション映像などで流れ続けています。
派手さや力強さを前面に押し出すような曲ではありません。
むしろ、どこか控えめで静か、それでいて心の奥にじんわりと届いてくるような、深い温かさを感じる旋律です。
私がこの曲を聴くとき、いつも感じるのは、「日常から少しだけ切り離された時間に、そっと寄り添ってくれる存在」のような感覚です。
飛行機が滑走路で一旦停止し、離陸に向けてゆっくりと加速を始める。
その瞬間に流れるイントロは、まるで静けさの中にある期待や希望を代弁してくれているように思えます。
空に向かって上昇していく感覚。
未知の土地、異なる文化、初めて出会う人々へと向かっていくあのわくわく感。
この曲には、そうした“まだ見ぬ場所への高揚感”が、不思議なほど自然に重なってきます。
また、単に「旅を盛り上げる曲」ではなく、どこか“自分を整えてくれるような安定感”があるのも、この曲の魅力だと感じています。
これから何かが始まるけれど、それは焦って進むようなものではなく、一歩ずつ自分のペースで向かっていけばいい。
そんな気持ちにさせてくれるのです。
海外出張でも、プライベートな旅行でも、どこかへ向かうフライトのたびにこの曲を再生するのは、単に習慣だからというだけでなく、“旅に向けて心をそっと整えてくれる”存在になっているからなのだと思います。
JALの公式楽曲であることを抜きにしても、飛行機で空に向かう瞬間に、これほどフィットする曲には出会ったことがありません。
4章:他社便でも聴く“私だけの旅ルール”
前述の通り、『I Will Be There with You』は、もともとJALの機内音楽として制作された楽曲です。
しかし、私にとってはもはや「JALの音楽」という枠を越え、“離陸前に聴くべき一曲”として、すっかり旅の一部になっています。
このため、実際にはJAL便に限らず、ANAやタイ国際航空、ベトナム航空など、どの航空会社を利用する場合でも、私は必ずこの曲を再生しています。
たとえ搭乗しているのがJALでなくても、離陸直前の滑走路で一旦停止するあの瞬間に、イヤホンでこの曲を流すのが、私なりの旅のルールです。
ーー
機内アナウンスが終わり、シートベルト着用サインが点灯し、エンジン音が高まるタイミング。
その瞬間に音楽アプリを立ち上げ、静かに再生ボタンを押します。
スマートフォンの画面を閉じ、目を閉じて、ただ音に身を委ねる。
機体が動き出し、滑走路を走る。
音楽楽がサビに差し掛かるころ、機体がふわりと地面を離れ、空へと舞い上がっていきます。
その一連の流れに、この曲のリズムや雰囲気がとてもよく合うのです。
ーー
もちろん、航空会社ごとに流れる音楽やサービスにはそれぞれの良さがあります。
それでも、私は毎回この一曲に戻ってきてしまいます。
これはきっと、音楽がもたらす「自分だけの安心感」や「心のリセット」があるからなのだと思います。
旅の始まりは、ワクワクすると同時に、ほんの少しだけ緊張もあります。
知らない土地、初めてのホテル、現地とのコミュニケーション。
非日常が待っているからこそ、出発前に気持ちを整えておきたい。
そんなとき、この音楽を流すことが、自分自身の気持ちを整える合図になっているのです。
これは誰かに決められたルールではなく、私自身が自然と編み出した小さな儀式。
この曲があるから、どんな旅でも自分らしくスタートを切れる。
そんなふうに感じています。
5章:音楽がくれる“非日常への扉”
旅とは、単に物理的な移動ではありません。
日々の生活から少しだけ距離を置き、新しい場所、新しい空気、新しい自分に出会うための時間だと、私は思っています。
だからこそ、その始まりには、心の準備が必要です。
慌ただしく空港に向かい、チェックインや保安検査を済ませ、ようやく機内で一息ついたそのタイミング。
私にとっての“非日常への扉”は、まさにそこで開かれます。
その扉を開く鍵が、『I Will Be There with You』なのです。
この曲を聴くと、不思議と心が静かになります。
頭の中にあった仕事の段取りや家庭での細々とした用事が、少しずつ後ろに下がっていき、今この瞬間に意識が戻ってくる。
そして、これから出会う景色や人との時間に心が向いていきます。
音楽には、気持ちを切り替える力があると思います。
それは理屈ではなく、感覚に直接働きかけてくれるものです。
この曲のやさしいメロディとゆったりとしたテンポは、「焦らなくていい」「大丈夫だよ」と、静かに語りかけてくれているように感じます。
そして、離陸の瞬間にそのサビが重なることで、「今、ここから非日常が始まるんだ」と、自然に意識が変わっていくのです。
日常には、タスクや責任があふれています。
一方、旅には予定はあっても、そこに自由さや余白がある。
この曲を再生することは、その余白に向かって一歩踏み出す、小さな儀式のようなものなのかもしれません。
音楽で切り替わるのは気持ちだけではありません。
その後の時間をどう過ごすか、その土地で何を感じるか。
そういった一つひとつの体験を、より深く味わうきっかけにもなっていると感じます。
この曲があることで、私は“旅をする自分”に戻ることができる。
それが、この曲を聴き続けている理由の一つなのだと思います。
第6章:これからの旅と、人生のルーティン
こうして振り返ってみると、私にとって旅と音楽は切り離せない存在になっていたのだと、改めて気づかされます。
『I Will Be There with You』という一曲が、いつの間にか“旅の始まりの合図”になり、どんなフライトにも欠かせないルーティンとして定着してきました。
これは、旅の数だけ繰り返してきた、小さな習慣の積み重ねです。
誰に強制されたわけでもなく、ただ自分自身の心が求めて自然とそうなっていった。
だからこそ、何年経っても色褪せず、意味を持ち続けているのだと思います。
私はこれからも、旅を続けていきたいと思っています。
仕事としてのフライトも、プライベートな時間も、いずれ実現したいと考えている日本とタイの2拠点生活も、そのすべてに「旅」という要素が含まれています。
そして、たとえどんな場所へ向かうとしても、離陸前にこの曲を聴くというルーティンは、きっとこれからも続いていくでしょう。
旅のスタイルや目的が変わっても、自分の心を整え、切り替えるための“儀式”を持つことは、とても大切なことだと私は思います。
それが音楽であっても、香りであっても、服装や持ち物であってもいい。
「これをすれば、旅が始まる」
そう思える何かがあるだけで、旅の時間はもっと豊かになるはずです。
皆さんにとっての“旅のスイッチ”は何でしょうか?
もし、まだ見つかっていないのであれば、次の旅から始めてみてはいかがでしょうか。
自分だけのルーティンが、きっと旅そのものの記憶を、もっと特別なものにしてくれるはずです。
旅は人生の縮図。
そして、自分らしい旅のスタイルを持つことは、自分らしく生きるためのヒントにもつながるのだと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
コメント