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特殊用途鋼として、ステンレス鋼鋼材について説明します。
一般に鉄鋼材料は、湿気があれば赤錆を生じ、酸と接触すれば溶解することも多いです。
しかし、鉄にクロムCrを添加するとクロムCr含有量の増加と共に腐食は減少傾向にあります。
クロムCrを約10%以上添加すると、クロムCrの酸化物(Cr2O3)が薄く緻密な酸化皮膜となって表面を覆い、酸に対する保護性を高めるため、耐食性は著しく改善されます(酸化性環境下、即ち、酸素が十分に存在する環境下でのみ安定)。
また、ニッケルNiを併せて添加すれば非酸化性環境下でも耐食性を示すようになります。
そこで、耐食性を向上させる目的でクロムCr又はクロムCrとニッケルNiを添加した鋼で、クロムCr含有量が約11%以上の鋼をステンレス鋼(Stainless Steel)といいます。
JISでは「ステンレス鋼棒(JIS G 4303);SUS-B」や「熱間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯(JIS G 4304);SUS-HP、SUS-HS」及び「冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯(JIS G 4305);SUS-CP、SUS-CS」などが規定されており、60種類以上の鋼種が存在します。
ステンレス鋼の鋼種記号はAISI(American Iron and Steel Institute:アメリカ鉄鋼協会)規格に準じています。
日本独特の鋼種は、類似のAISI鋼種記号の後ろにJ1、J2のように記号を付けています。
なお、後ろに付ける記号として他にも「L」(Low Carbon;極低炭素)や「N」(窒素添加)などがあります。
ステンレス鋼の種類は、金属組織から5つに分類されます。
フェライト系ステンレス鋼(Cr系)
18%クロムCr鋼(SUS430など)が代表鋼種です。
鉄Fe-クロムCr系合金において、クロムCr含有量が14.3%以上になるとオーステナイト相は現れず、高温から低温までフェライト単相となります。
高温域でもフェライト相のため焼入れ硬化はできませんが、耐食性や耐酸性はマンテンサイト系より優れており、冷間加工や溶接も容易なため薄板として建築内装材、硝酸タンク、自動車装備品、厨房器具などに使用されます。
また、Niを含まない為、価格が安く、オーステナイト系の欠点である応力腐食割れが起こり難いという利点もあります。
但し、全体的な耐食性はオーステナイト系より劣ります。
マルテンサイト系ステンレス鋼(Cr系)
13%クロムCr鋼(SUS410など)が代表鋼種です。
前述の通り、クロムCr含有量が14.3%以上になると高温から低温までフェライト単相となりますが、炭素Cを適当量添加すると高温域でオーステナイト単相にすることができ、焼入れでマルテンサイト変態させて硬化させることができます。
炭素C量、クロムCr量共に高い鋼は、低温で焼戻して刃物や耐食耐摩耗部品に使用されます。
一方、炭素C量、クロムCr量共に低い鋼は、高温(650~700℃)で焼戻して靭性を高めて蒸気タービンブレードや船舶用シャフトなどの機械構造用部品に使用されます。
焼戻しにより炭化物が析出するため、フェライト系やオーステナイト系と比較して強度は高いですが耐食性は劣り、溶接には適さないです。
オーステナイト系ステンレス鋼(Cr-Ni系)
18%クロムCr-8%ニッケルNiステンレス鋼(18-8ステンレス鋼;SUS304など)が代表鋼種です。
ニッケルNiを添加することで、非酸化性環境下(硫酸や塩酸など)での耐食性も確保しています。
鉄Fe-18%クロムCr合金はフェライト単相ですが、8%程度ニッケルNiを添加することでオーステナイト単相となります。
但し、18-8ステンレス鋼は、Ms点(マルテンサイト変態開始温度)が室温よりはるかに低いため焼入硬化性は無く、強度はマルテンサイト系より低いです。
加工性(深絞り成形性など)や溶接性に優れるため、食品、建築、自動車、船舶、航空機、原子炉関係など広範囲で使用されます。
また、非磁性のため不感磁性材料としても使用されます(但し、加工の程度によっては、加工誘起マルテンサイト変態が生じて、磁性を有するようになるため注意が必要です)。
低温脆性がないため低温用鋼としてLNGタンクなどにも使用されます。
更に、常温で圧延や線引き加工を施すと大きな加工硬化を示し高強度が得られるため、ばね用鋼材としても使用されます。
引張応力を受けた状態で塩化物イオンCl-などを含む水溶液に曝されると、ある時間経過後に脆性破壊を発生することがあり、これを応力腐食割れ(SCC:Stress Corrosion Cracking)といいます。
更に、溶接の熱影響などでクロムCr欠乏層が形成されて粒界腐食が発生し易い(鋭敏化し易い)状況になると、微量の塩化物イオンCl-や酸化物イオンO2-の存在でも応力腐食割れが発生します(粒界起因)。
対策としては、応力低減やニッケルNi含有量の増加などが挙げられます。
オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼(Cr-Ni系)
25%クロムCr-4.5%ニッケルNi-2%モリブデンMo鋼(SUS329J1)が代表鋼種です。
オーステナイト系ステンレス鋼で問題となる粒界腐食、応力腐食割れ、孔食及び隙間腐食の対策として、クロムCr含有量を20%以上にして、ニッケルNiを減らしオーステナイトとフェライトの2相組織にしたステンレス鋼です。
クロムCrが多いため不動態皮膜が安定で全面腐食、孔食及び隙間腐食に対しても優れています。
また、フェライト中のクロムCr拡散速度が大きくクロムCr欠乏層が形成され難いため、粒界腐食や粒界起因の応力腐食割れも生じ難いです。
析出硬化系ステンレス鋼(Cr-Ni系)
17%クロムCr-4%ニッケルNi-4%銅Cu鋼(SUS630)や17%クロムCr-7%ニッケルNi-1.2%アルミニウムAl鋼(SUS631)が代表鋼種です。
航空機材料などを目的として開発されたステンレス鋼で、マルテンサイト変態後析出硬化処理を行います。
航空機の外殻や構造部材、スポーツ用品などに使用されています。
低温・常温・高温のいずれの温度域においても高い強度を有します。
- JIS G 4303:ステンレス鋼棒
- JIS G 4304:熱間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯
- JIS G 4305:冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯
- JIS G 4308:ステンレス鋼線材
- JIS G 4309:ステンレス鋼線
- JIS G 4313:ばね用ステンレス鋼帯
- JIS G 4314:ばね用ステンレス鋼線
- JIS G 4315:冷間圧造用ステンレス鋼線
- JIS G 4316:溶接用ステンレス鋼線材
- JIS G 4317:熱間成形ステンレス鋼形鋼
- JIS G 4318:冷間仕上ステンレス鋼棒 など