特殊用途鋼について1

はじめに

特殊用途鋼として、工具鋼鋼材について説明します。

工具鋼鋼材

工具鋼は、各種刃物や工具の材料として使用される鋼材です。

工具鋼の特性として、常温・高温での硬度が高く、耐摩耗性に優れ、適度な靭性を有しています。

また、熱処理が容易で、硬さや耐摩耗性を高めるために、比較的炭素含有量の高い鋼が用いられます。

JISでは工具鋼鋼材として炭素工具鋼鋼材(JIS G 4401)、合金工具鋼鋼材(JIS G 4404)、高速度工具鋼鋼材(JIS G 4403)を規定しています。 

炭素工具鋼鋼材(SK) 

炭素C含有量が0.6~1.5%で、特に合金元素を添加しない工具鋼です。

炭素量によって性質・用途が決まります。

工具鋼の中で、炭素工具鋼は生産量が多く値段も安いので、工具用に広く便利に用いられています。

炭素工具鋼は、高温になると硬度が低下する為、熱の発生が比較的少ない手工具に多く使用されます。

高炭素系はセメンタイトが増加して耐摩耗性が向上する為、耐摩耗性の要求度の高い切削工具など、低炭素系は靭性を必要とするゼンマイ,タガネなどに用いられます。 

セメンタイトがオーステナイト粒界に網目状に析出して非常に脆い為、通常は焼入れ前にセメンタイトを球状化する熱処理(球状化焼鈍処理)を行います。 

なお、炭素工具鋼は炭素C含有量0.6%以上と規定されていますが、炭素C含有量が0.6%以上になると焼入れ後の硬さ(引張強さ)はほとんど変化せず、耐摩耗性や耐衝撃性が変化する。

機械構造用炭素鋼(SxxC材)との線引きが炭素C含有量で0.6%付近になっているのはこうしたことが背景にあると考えられます。 

合金工具鋼鋼材(SKS、SKD、SKT) 

炭素工具鋼(SK)は、焼入性が低く形状が複雑な場合、焼割れや変形が生じやすいです。

そこで、ニッケルNi、クロムCr、モリブデンMo、タングステンW、バナジウムVなどの合金元素を添加して、焼入性、切削性、耐摩耗性、耐衝撃性、不変形性及び耐熱性などの性質を改善・向上したものが合金工具鋼になります。

合金工具鋼は、熱処理を施すことでその性能を十分に発揮することができる為、使用する工具に適した焼入れ焼戻しを行う必要があります。 

なお、 材料記号のSKの後に続く「S」、「D」、「T」は、それぞれ「S: Special」、「D: Die」、「T: TANZOU」の頭文字に相当します。 

高速度工具鋼鋼材(SKH材) 

高速度工具鋼(SKH)は、合金工具鋼の高温硬さを改善した鋼です。

高速度で切削して刃先が高温(約600℃)になっても軟化せず、切削能力が低下しないことから名付けられました。

High speed(高速度)の「H」をとってSKHとして分類しており、ハイスとも呼ばれます。

工具鋼の中では最も多くの合金元素(クロムCr、タングステンW、バナジウムV、モリブデンMo、コバルトCoなど)を含有しており、タングステンW系とモリブデンMo系に大別できます。

各種バイト、ドリル、スライスなどの切削工具に利用されています。 

焼戻し温度が300~400℃の場合、硬さが減少しますが、600℃付近の場合、モリブデンMo、タングステンW、バナジウムVの炭化物が微細に析出することで硬くなります。

このように焼戻しで硬さを増す現象を二次硬化といいます。このように二次硬化する鋼材は、高温強度が高い為、使用環境が500℃程度の高温になるような場合に用いられます。 

a) タングステンW系(SKH2、SKH3、SKH4、SKH10) 

高い焼戻し軟化抵抗と高温耐摩耗性を有する鋼として、18-4-1型(18%W、4%Cr、1%V)と呼ばれるSKH2が開発され、その後、タングステンWをモリブデンMoで代替する開発が進みました。 

タングステンWの大量添加で高温硬さを確保し、クロムCr添加で焼入性を向上し、コバルトCo添加でオーステナイトへの炭素Cの溶解度を高めて、焼戻し硬さ、高温硬さを高めて、切削耐久力を向上させています。 

b) モリブデンMo系(SKH40、SKH50、SKH51、SKH52、SKH53、SKH54、SKH55、SKH56、SKH57、SKH58、SKH59) 

タングステンW系と比較して炭化物の分布が均一で微細なため靭性が大きく、モリブデンMoの原子量がタングステンWのほぼ1/2で添加量が少なくて済むためタングステンWの一部をモリブデンMoに置き換えて使用します。

また、高温硬さはやや劣りますが、焼入れ温度が低く、密度が小さく、熱伝導率が大きく、安価なため、使用頻度が高く高速度工具鋼生産量の90%以上を占めるといわれています。

工具鋼の関連規格
  • JIS G 4401:炭素工具鋼鋼材
  • JIS G 4403:高速度工具鋼鋼材
  • JIS G 4404:合金工具鋼鋼材
日本産業規格(JIS:Japanese Industrial Standards)の検索(日本産業標準調査会)

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