第二次試験問題〔金属加工/塑性加工〕を解く

はじめに

選択科目「金属加工」の内容は、「鋳造、鍛造、塑性加工、溶接接合、熱処理、表面硬化、粉末焼結、微細加工その他の金属加工に関する事項」と規定されています。

今回、選択科目の専門知識の一分野である塑性加工の学習として、平成20年度Ⅰ-2-3の問題を解きます。

問題(平成20年度Ⅰ-2-3:答案用紙3枚)と解答

問題

薄板の絞り加工時に材料がどのような変形を受けるか?円筒深絞りの場合について詳細に述べ、それと比較しながら角筒深絞りの場合の特徴と問題点を列記し、その対策について述べよ。

解答

1.薄板の円筒深絞り加工時の材料の変形について

 円筒の深絞り加工の場合に各部位で材料が受ける変形について以下に述べる。

1ー1.フランジ部

 材料がダイス穴方向へ移動するため周方向に圧縮力が働き、その圧縮力は絞り方向の伸び変形と板厚増加に分配される。

1ー2.ダイス肩部

 材料はフランジ部の絞り変形による絞り方向の引張応力下で曲げ・曲げ戻し変形を受けて、板厚が大きく減少する。

1ー3.側壁部

 フランジ部の絞り抵抗と摩擦抵抗が合成されて軸方向の引張力として材料に作用する。しかし、フランジ部で加工硬化した材料の変形抵抗が大きく、側壁部では軸方向にほとんど変形しない。また、円筒の場合、周方向にも変形しない。

1ー4.ポンチ肩部

 材料は底部から側壁部へ絞り変形するため、半径方向への引張変形に加えて曲げ・曲げ戻し変形を受けて、板厚が大きく減少する。また、ポンチ肩部の摩擦力は、絞り方向と同一方向に働くため、この摩擦力が影響する部分は変形しにくい。

1ー5.底部

 半径方向に側壁部を伝達してきた引張力が働くため、材料は外周方向へ変化する。また、円筒平底の場合、周方向にも半径方向と等しい引張力が働き変形する。

2.角筒深絞り加工の特徴

 角筒の深絞り加工の場合、コーナー部と直辺部に分けて考えることができる。

 まず、コーナー部についてその形状は1/4円形状になっており、円筒の一部とみなせる。したがって、材料が受ける変形は円筒と同様に考えられる。

 一方、直辺部では材料は単純な曲げ・曲げ戻し変形を受ける。

 しかし、コーナー部と直辺部では、フランジ部の材料がダイス穴へ流れ込む入口の大きさが異なる。直辺部ではほぼ平行に流れ込むので流れ速度が速いのに対して、コーナー部では材料が狭い入口に寄って流れ込むため流れ速度は遅く、流れ速度差が生じる。したがって、コーナー部と直辺部の境界付近では流れ速度差によるせん断応力が発生し、材料はせん断変形を受ける。

3.角筒深絞り加工の問題点とその対策

3ー1.壁割れ

 コーナー部では、1/4円形状で円筒の一部に相当するため絞り変形抵抗が生じる。一方、直辺部は曲げ・曲げ戻し変形であり大きな抵抗力は生じない。したがって、コーナー部の絞り変形が厳しく壁割れが生じ易い問題がある。

 この問題に対しては、コーナーのブランクエッジ付近を切断せずに方形ブランクのまま成形する。

 コーナー部と直辺部の境界付近ではせん断応力が発生し、その応力を解消するためコーナーフランジに曲げモーメントが発生して湾曲する。しかし、コーナーのブランクエッジ付近を切断せずそのまま残すと曲げ剛性を確保できるため、湾曲が小さく抑えられ境界付近のせん断応力を維持できる。したがって、絞り変形抵抗を直辺部でも分担できるためコーナー部の変形抵抗が緩和され、壁割れを防止できる。

3ー2.側壁部の形状不良

 角筒では、直辺部の後方張力が小さいためダイス肩部で受けた曲げ癖が伸ばされず、側壁部が内側にふくれて形状が出ない問題がある。

 この問題に対しては、直辺部にビードをつけて後方張力を付与した状態で成形して、側壁部の形状を出しやすくする。

 但し、ビードは直辺部の材料の流れ込みを拘束するため、コーナー部と直辺部の境界付近のせん断応力が小さくなり、直辺部で変形抵抗を分担できずコーナー部の成形限界が低くなる。そこで、ビード長さをできるだけ短くして材料の流れ込みの拘束を最小限にする必要がある。

終わりに

現行第二次試験の金属加工【選択科目Ⅱ】のⅡ-1で問われる「選択科目についての専門知識」の学習の参考になればと思います。

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